はじめに言い訳をしておく。

筆者は物語に散りばめられた暗喩や隠喩に気づけないウスラトンカチである。『アイドルマスター シンデレラガールズ』放映中に時計の時刻や花言葉に関してツイートするオタクを「へえ~。頭いいな~」とぼんやり鼻クソをほじりながら見ていたような。あるいは『ラブライブ!サンシャイン!!』に関してだって、紙飛行機や翼の意味をあれこれ考察するオタクを見て「ほえ~」と耳クソをつつきながら見ていたような。

だけど、13話の最後で千歌が学校へ行き、体育館で全校生徒とAqoursの8人に迎えられ、祝福されるあの展開が、納得いかないというより……そうじゃなくて、なんというかあまりにも悲しかった……。「そうじゃない……そうじゃなくないか…?」と思ってしまったのでこの文章を書いている。

筆者はリアルタイムで観ることが出来なかった。コミケにサークル参加して、打ち上げでそこそこ飲んだからだ。なのでリアルタイムでファンの皆様がどのような感想をつぶやいていたのか見ることができないのが非常に悔やまれるところだ。しかし、ニコ生のアンケートで「とても良かった」が49.3%と低評価だったと聞いている。この感じはなんとなくとてもよくわかる。

筆者の不満は……というよりも、不満はないのだが……あっ、目の作画には不満があるのだが、それは些細な事で……。

なにが悲しいのかって、千歌以外の8人が過去の自分でなく成長した自分になっていて、それがAパートで描かれている。梨子は犬を克服しているし、ピアノに対する意識も更新している。曜は……なぜか梨子に告白している。1年生は併合先の新しい学校に対する不安もありつつ3人でなんとかしてみせる、という気迫を感じさせる描写であった。3年生もバラバラになっちゃうけどイケるでしょ的な力強さを2期12話の時点から匂わせていた。

千歌は、みんなが未来へ一歩踏み出しているのにまだ悩んでいる。三津浜に優勝旗を立てて「これでよかったんだよね」と悩んでいる。

思えば千歌は実に今時のキャラクター造形になっている。彼女のラブライブ!に対する思いも、廃校を阻止したいという思いも、おそらくは彼女のアイデンティティ不安に依るものだと予想できる。千歌のアイデンティティ不安は「輝きたい」という形で、スクールアイドル結成~廃校の阻止、あるいはラブライブ!優勝という目的へ仮託される。

が、それはあくまで仮託されたものに過ぎないと改めてBパートで明らかになる。

ふたつの目的は決着している。廃校は阻止できなかった。ラブライブ!には優勝した。

ここで、千歌が自らのアイデンティティ不安を仮託していたことの意味を考えさせられるのである(※1)。

母:ねえ、憶えてる? むかしの千歌は、うまくいかないことがあると、人の目を気にしてほんとは悔しいのにごまかしてあきらめたフリをしてた。紙飛行機の時だってそう。
千歌:ねえ
母:なに?
千歌:私、見つけたんだよね? 私達だけの輝き。あそこにあったんだよね。
母:本当にそう思ってる?
美渡:相変わらず、バカチカだね!
志満:何度でも飛ばせばいいのよ! 千歌ちゃん。
母:本気でぶつかった感じた気持ちの先に答えはあったはずだよ。諦めなかった千歌には、きっとなにかが待ってるよ。

三津浜で千歌の悩みに助け舟を出すのはAqoursの8人でなく母親と姉である。おそらくこれは構造的なことで、Aqoursの8人はもう既に未来に一歩踏み出しているのだから、千歌に言葉を掛ける役目は担えない。また(これは構造的なことかもしれないが)千歌がAqoursを結成したことによって、8人は各々の問題にカタをつけて未来へ一歩踏み出しているのも皮肉なものだ。千歌は触媒になって皆を救ったのに自らは救われていない。

「私、見つけたんだよね? 私達だけの輝き。あそこにあったんだよね」とこの期に及んで不安気に母に尋ねる千歌の姿は、胸に迫るものがある。また母も、そして姉も直接「あった」とは言わない。あくまで千歌が自身でケリをつけなくてはいけない問題であると突き放す。この突き放しっぷりも、胸に刺さる。が、アイデンティティ不安は、千歌自身が解決しなければいけないのだから、千歌に考えさせるのは構造的には筋が通っている。だけどちょっと冷たくないか……。

もう一度紙飛行機を飛ばし、落ちそうになる。「行けェッ! 飛べーっ!!」千歌の声に応えてか紙飛行機は息を吹き返し、大空へ再度飛んでゆく。

その先には……。

紙飛行機は裏の星女学院へと飛んでいく。

千歌は裏の星での日々を追想することで、ここで全力でスクールアイドルをやってきた日々そのものが、輝きだったのだと気づく。体育館でみんなに迎えられて気づくのだ。

千歌:わかった。私がさがしていた輝き。私達の輝き。足掻いて足掻いて足掻きまくって、やっとわかった! 最初からあったんだ。初めて見たあの時から。なにもかも一歩一歩、わたしたちが過ごした時間の全てが。それが輝きだったんだ。探していた私達の、輝きだったんだ!

千歌は、救われた。

よかったではないか。千歌の成長譚としてなんの問題があろう。

大有りである! いや……、あると思う……。

『ラブライブ!サンシャイン!!』に夢ともうつつとも知れないシーンがあることに今更戸惑っても仕方ないのだけど、今回ばかりは……今回はちょっと待ってくれ!と思った。

千歌:みんな、でもどうして? あっ。

生徒一同:じゃーーーん。

曜:夢じゃないよ。
果南:千歌と、みんなで歌いたいって。
鞠莉:最後に
ダイヤ:この場所で
善子:約束の地で
花丸:待ってたずら
ルビィ:千歌ちゃん!
梨子:歌おう
8人:いっしょに

千歌:うん!

このシーン、というか学校に侵入するシーンからなのかもしれないが、夢かうつつかわからない。筆者は千歌の心象風景だと思うが、千歌が過去の幻影と踊っているように見えるのだ。Aパートで8人が未来へ一歩踏み出していたのに、千歌はひとり過去に救いを見出して、過去を行きてしまったように見える。いや、それは僕の勘違いだってのはわかってるんだけど、でも、でも……。もっと他に描き方はなかったのかと思ってしまう。

そうではないんだけど、千歌がひとり過去に安寧して…過去に囚われて…未来に一歩進めないように、見えた(※2)。

※1 そういえば大きな問題(全体の問題)が解決して小さな問題(個人の問題)が雲散霧消するのは70年代の特撮ドラマによく見られた(アニメにも見られたのだろうが筆者が不勉強なのと、筆者が特撮オタクなので特撮ドラマに限った言及になってしまうことを許していただきたい)。このことに決着をつけようとして、しかし失敗したのが『新世紀エヴァンゲリオン』TVシリーズだったのでないかと筆者は睨んでいるのだが、どうだろうか。

※2 全て筆者が千歌の悩みに気づけなかったのがいけない。アニメを見る目がないのがいけない。

初出:note(2018.01)