今年の初めに倒産した着物屋さんの店長さんが、一生に一度のことだからと無給で店を開けたというニュースがあった。その時はいい話だなと思ったのだけど、お金も払われず働くのはイヤだなあと、そっちの方面のことを考えていた。最近このニュースを思い出したのだけど、今思うのは「一生に一度のこと」という部分だ。
僕は働くことにあまり気合を入れたことがなくて、まさにお金のために働いている。お客さんのことなんて、ましてや。なので他人の大切な日、それこそ「一生に一度のこと」を扱う人のことを思って、すごいなと思ってしまう。
成人式も扱う仕事はもちろんそうだし、冠婚葬祭もそうだ。ホテルや旅館、飲食店だって、あるいはおもちゃ屋さんだって、お客さんの「人生に一度のこと」に立ち会っているかもしれない。働く方にしてみれば昨日と同じ一日でも、お客さんにとってみればかけがえのない一日かもしれないのだ。
ここから連想する。毎年アニサマで「こんなに大きい舞台に立てて嬉しいです!」と感激するアーティストのことだ。観客である僕にとっては何度も聞いた言葉で、たいして興味のない人だと「またかよ」と冷めた目で見てしまう。「早くMC終わらないかな~」などと思うことさえある。
とても失礼な話だ。それに決定的に間違っている。僕は何度もアーティストの初めてのさいたまスーパーアリーナを見ているのだが、それぞれ別の人である。同じ人が何度も言っているわけではない。違う人の初めてを何度も聞いた初めてに変換してしまっているのだ。誰が言っているのかを忘れてしまっているのである。立った人にとって初めてであることを想像しようともしていない。まったく失礼な話ではないか。相手の気持になって考えたほうがいい(※1)。これからはせめて失礼のないようにしようとたった今思った。
そうなのである。相手の立場に立って考えることは重要だ。例えば子供の初めてを他の人の累積にすり替えていないか。「お兄ちゃんはもっと小さい頃に出来た」「ミヨちゃんはもっとうまく出来たよ」このような発言は初めてできた感動にフォーカスしていないのでとてもよくないん(※2)。
相手の気持になって考えること、それはとても大事なこと。だってその人の生は一度っきりの大切なものだから。などというと実に気持ち悪いな。綺麗事を言っているみたいだし。綺麗事じゃなくて本音なんだけど。なにかオチをつけないと……。
あ、そうそう。僕は「世界に一つだけの花」があまり好きじゃないが、たぶんそういうことを言っているのだろう。だとすればちょっと見直すべきだな。好きじゃないけど。
※1 いちいちそんな態度で見ていたら疲れてしまうのだが、せめて心に留めておいて、失礼な態度を取らないようにしようと思うことは出来る。
※2 更にその上、相手をこき下ろしている。よくないな。