アニメ主題歌はヒーローの名前を連呼するものだったと思われる。連呼せずとも、歌詞に入れるべきものであったはずである。ところが、いつしかヒーロー名は歌詞から消えていった。

本稿では勇者シリーズの主題歌に注目してみたい。サンプルとして適切かどうかわからないが、ここからヒーロー名が歌詞に登場しなくなったことの糸口がつかめれば幸いである。

勇者シリーズは、90年の勇者エクスカイザーを始まりとする一連のロボットアニメシリーズである。鉄道が変形するロボットが大きな特色で、今見ると200系やまびこや400系つばさに時代を感じる。それはさておき。本シリーズでの主題歌におけるヒーロー名の歌われ方について見ることにしよう。

まずは勇者シリーズ第一作『勇者エクスカイザー(’90)』オープニングテーマ「gatherway」から。この曲のサビでは《Go with me エクスカイザー》と歌われている。
第二作『太陽の勇者ファイバード(’91)』オープニングテーマ「太陽の翼」では《BURNIN’ ファイバード… ファイバード… ファイバード…》である。
第三作『伝説の勇者ダ・ガーン(’92)』オープニングテーマ「風の未来へ」では《We can fly!》に対応する形で《Say! ダ・ガーン》と歌われている。
第四作『勇者特急マイトガイン(’93)』オープニングテーマ「嵐の勇者」では《正義の力が 嵐を呼ぶのさ マイトガイン》となっている。
第五作『勇者警察ジェイデッカー(’94)』オープニングテーマ「HEART TO HEART」では《BURNlNG HEART TO HEART,J-DECKER!》と歌われている。
第六作『黄金勇者ゴルドラン(’95)』オープニングテーマ「僕らの冒険(アドベンチャー)」ではヒーローの名が歌われていない(※1)。
第七作『勇者指令ダグオン(’96)』オープニングテーマ「輝け!!ダグオン」では《ダグオン 輝け!!ダグオン》である(※2)。
第八作『勇者王ガオガイガー(’97)』オープニングテーマ「勇者王誕生!」では《ガガガッ ガガガッ ガオガイガー!》と歌われている。

さて、この中でヒーロー名が歌われている『ゴルドラン』以外の楽曲を、二つのグループへ分類を試みたい。ひとつは『エクスカイザー』『ファイバード』『ダ・ガーン』『ジェイデッカー』のグループ。もうひとつは『マイトガイン』『ダグオン』『ガオガイガー』である。
後のグループから話をすすめることにする。こちらは昔ながらのヒーローの名前を連呼する系のアニメ主題歌。「マジンガーZ(’72)」、「ゲッターロボ!(’74)」、「コン・バトラーVのテーマ(’76)」、「GO!GO!トリトン(’72)」などに連なる系譜である。「アニソンっぽいアニソン」と言っていいだろう。

対して、前者が本稿で問題にしているものだ。こちらはヒーロー名が歌われているものの、英語詞コーラス(と言えばいいか掛け声と言えばいいか。詞に本筋があるとすれば、本筋でない部分である)にこっそり(※3)紛れ込ませる形で歌われているのである。このグループに類する楽曲は他に『機動戦士Ζガンダム(’85)』の「Ζ・刻をこえて」や『重戦機エルガイム』の「エルガイム-Time for L-GAIM-」、「風のノー・リプライ」などが挙げられる。勇者シリーズ放映中のもので言えば『機動戦士Vガンダム(’93)』の「STAND UP TO THE VICTORY」や『機動武闘伝Gガンダム(’94)』の「FLYING IN THE SKY」がある。

なぜこれらの曲では、真正面からヒーロー名を叫ぶことを避けているのだろうか。筆者が思うに、ダサいからではないか。だからこっそりヒーローの名前を英語詞のコーラスに紛れ込ませることで、アニソンっぽさを隠蔽しつつアニソンの体を保っているのではないかと思われる(尤も、ヒーロー名を歌詞に入れずとも、内容によってアニソンだとわかるわけだが)。

しかしながら、同時代、いや以前から『装甲騎兵ボトムズ(’83)』の「炎のさだめ」や『機甲戦記ドラグナー(’87)』の「夢色チェイサー」などで見られるようにまったくヒーロー名を入れない例も珍しくない。これらはアニメの対象年齢が高くなるにつれ、くっきりはっきりアニメ主題歌だとわかる歌が忌避されたのではないかと推測している。あるいは歌う側の歌手の都合かもしれない。アイドルをはじめとした人たちのタイアップが盛んになるにつれて、歌詞をひと目見てアニソンだとわかる曲でなくなていったのではないか(尤も、一聴すればアニソンっぽさは曲調からわかるのであるが)。

こうした時代の流れにあって勇者シリーズがヒーロー名をこっそり英語詞に紛れさせているのは、なるほどいたって自然なことのように思える。こうしてわざわざ本稿で触れる必要がないほど。しかし、筆者はまったく私的な理由から、勇者シリーズの主題歌に違和感を感じ筆を取るに至った。それはなにか。

エルドランシリーズである。こちらもサンライズ制作のロボットアニメシリーズで、『絶対無敵ライジンオー(’91)』、『元気爆発ガンバルガー(’92)』、『熱血最強ゴウザウラー(’93)』の三作品がそれにあたる。筆者はこのシリーズが好きで、このシリーズに先に触れていたために勇者シリーズの主題歌が、なんとなく気取って見える。

念のために、エルドランシリーズの主題歌でヒーロー名がどう扱われたかを見ることとしよう。
『絶対無敵ライジンオー』ではオープニングテーマ「ドリーム・シフト」ではサビのラストで《夢見る力は/絶対無敵ライジンオー》
『元気爆発ガンバルガー』オープニングテーマ「元気爆発ガンバルガー」では、こちらもサビ終わりで《GUAMBARE 明日のヒーローさ 君は/元気爆発ガンバルガー》である。
『熱血最強ゴウザウラー』オープニングテーマ「KEEP ON DREAMING」ではサビの頭で《熱血最強ゴウザウラー/僕たちが手をつないだエネルギーさ》となっている。

ヒーローの名が(というより番組名が)真正面から歌われている。このいさぎよさがなぜ勇者シリーズにはなかったのだろうか。また、『マイトガイン』で一度見られ、『ダグオン』、『ガオガイガー』では真っ向から歌われるようになったのだろうか。

結論が出せればいいと思い書いてきたが、出なかったので本稿を終わる。なにかのヒントに慣れば幸いである。

※1 『ゴルドラン』で歌詞にヒーロー名がない理由であるが、作品の内容によるのではないかと推測している。ヒーロー対敵(侵略者・脅威)の作品にヒーローを鼓舞する、あるいはヒーローを求めたり、ヒーローと僕ら(視聴者)は仲間であるといった歌詞が要請される傾向にあり『ゴルドラン』はその例にそぐわないからではないかと思うのだが、いまひとつ自信がない。

※2 「輝け!!ダグオン」は少し変わっている。サビではなくBメロにヒーロー名が歌われている。それと、シリーズの他の作品ではタイトルロゴが曲の頭に表示されるが『ダグオン』では曲に合わせてかBメロである。

※3 「こっそり」であるかは主観にすぎないのだが。筆者は「こっそり」だと思っている。

初出:note(2017.7)